南砺市福光駅近くにある『お好みハウス たこ八』。
オーナーのKさんは、某メーカー企業で働いていたが31歳で脱サラし、お母さまが営んでいたお好み焼き屋を継いだ。
以前は、今の店舗からも近い別の場所にお店があったのだが、道路の拡張工事計画に伴い、5年半前に現在の場所に移転。
「常連のお客様も多かったので、以前のお店と近い場所でと考え見つけたのがここでした。ちょっと変わった台形の形をしている面白い建物なんです。でも最初は古くてボロボロだった」と当時を振り返る。
築30年ほどの古民家をリノベーションし、古き良き風情のある古民家の良さを生かした新店舗での営業をスタートした。
味のある梁を見せた重厚感のある開放的な空間
店舗に一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのが立派な梁。
経年変化を感じる味のある深い色が、落ち着きのある心地よい空間を演出している。
外観はこじんまりとして見えたが、店内はゆったりとした席配置や吹き抜けが開放的で広がりのある空間が特徴だ。
さらには、窓から注がれる自然光がお店全体を柔らかな雰囲気で包み込む。
リノベーションによって、古民家が本来持っていた良さに新しい価値がプラスされ、新築では出せない魅力的な空間が完成した。
オーナーは、「こちらの要望は、ダブルカウンターと掘りごたつ席を作ってほしいこと、そして鉄板の位置と向きの指定だけ。あとは、設計のプロである担当設計士の渋谷さんに任せました」と話す。
元々店舗設計を専門にしていた渋谷さんは、「キレイでおしゃれな店舗を作ることはもちろんできますが、せっかくなら古民家が持つ元々の良さや味を残して、非日常の雰囲気の中でお客様がゆっくり過ごせる空間を作ってはどうかと提案しました」。
古い建物なので必要な耐震補強を行った上で、存在感のある梁や柱などの見せるべき部分はしっかり残し、店舗としての性能や機能性を備えたプランに仕上げた。
Kオーナーが立つ奥のカウンター席。色の違う壁紙も落ち着いたトーンに合わせてあるのでモダンシックな印象に。
入口に掲げられた銅製の看板は、前のお店から引き継いだもの。なぜ文字が逆なのかは、お客さんに楽しんでもらいたいという遊び心とか。
お客様目線で考えられた空間づくり
同社に依頼したきっかけは、奥さまが「ライフイズ」が分社化する前の「電陽社建設」系列会社に勤務していたこと。
店舗設計やリノベーション施工も行っていたことから、迷うことなく依頼相談をしに行き、休みのたびにご夫婦で事務所に通い何度も話し合いを重ねた。
「行くたびに新しい設計図をもらえたのが嬉しくて!」と奥さま。
「嬉しくて、設計図をお客さんに見せたり、友だちに見せにいってそのまま朝まで飲んだこともありました(笑)」とオーナー。
「お店のことを考えた提案をたくさんしてくれたことが印象に残っています。資料を見たり話したりしている最中でも、こうしたらどうか?と例をみせながら提案してくれるのでわかりやすく、進めやすかった。店舗完成後も気さくに相談に乗ってくれるので、いつも頼りにしています」と、同社を選んでよかったと話す。
ファミリーに人気の掘りごたつ席。ゆったり間隔が取られているので、「子どもを寝転がせておいても安心してゆっくり食事を楽しめる」と喜ばれている。
オーナーのお母さまが立つ入り口そばのカウンター席。足元はキズが付きにくいメラミン化粧板を使用。
“お店のことを考えた提案”の中でも、特に心に残っているのが「席レイアウト」についての提案だ。
1階2階合わせて約60席あるのだが、正直最初はもっと席数を増やした方がいいのでは?と思っていたそう。
しかし、いろんな飲食店を見に行ってみると、新しいお店はどこもゆったりとした席づくりをしており、これが今の主流な形なのだなと気が付いた。
以前の店舗はカウンターだけの小さなお店だったため、お客様のほとんどが仕事帰りに呑みに来る男性客だったが、新店舗ではカウンター席、掘りごたつ席、テーブル席、お座敷席といろんなタイプの席を用意した。
「席のバリエーションが増えたことでファミリーや女性客も増えました。それぞれが居心地良く過ごせる場所で食事を楽しまれます。常連さんにもなれば、予約時にお気に入りの席を指定される方もいるんですよ」と奥さま。
さらには、落ち着いて過ごせる雰囲気に「カフェみたい。ゆっくり過ごせるのが嬉しい」という方も。
「いろんな席があると、来るたびに違う席で違う気分で食事を楽しんでもらえるのがいいですね」と微笑む。
また、娘さんは「席と席の間が広めにとってあると料理も運びやすいんです。それに、お客様の食事の進み具合やテーブルの様子が見えるポイントがあって、接客がしやすい。以前働いていた飲食店では、席が見渡せる場所がなくて、お客様から声をかけられるまで気が付かないということもありました。スタッフサイドの目線にも立って設計してくださったのは、働き手にとってもすごく助かります」と嬉しそうだ。
お客様のこと、そしてスタッフの働きやすさも考えてた設計提案に、「渋谷さんには足を向けて寝れませんよ(笑)」とオーナー。
娘さんはバット工場に嫁いだそうで、2階座敷の一角には、野球ファンにはたまらないレアなバットが展示されている。
奥行のある広い2階の座敷席。
固定観念を持たずにいろんな視点で作ることが大切
同社との店舗づくりは、悩めば悩むほどたくさんのことを学べて楽しかったそう。
例えば、壁紙決めひとつとっても「見れば見るほどどれがいいか分からなくなってきて、結構大変だった」と苦笑い。
古民家の落ちついた雰囲気に合う色を選ぶだけでなく、油が飛びやすい場所には汚れに強い壁紙を選ぶなど、機能性も考えて選んだ。
その苦労を経て、こだわって造り上げたお店の雰囲気をとても気に入っている。
店舗づくりで大切なのは、「1人で決めないこと」だとオーナーは言う。
「リノベーションを始めるまでは、自分主体で進めればいいと思っていたけれど、客観的に物事を考える時は女性の意見が大事だなと思いました。というのも、男性は画一的な考え方をする人が多いのに対して、女性は一人ひとり好みも考え方も違う。いろんな視点からの意見を参考にできたことが重要なポイントだったと思います。それに、私は見るからにアナログ派ですが、娘はデジタル世代なのでネットで収集してくれた情報もすごく役に立ちました」。
家族の意見や渋谷さんの提案を聞いて、「今まではこうだったという固定観念は持たない方が、いいものができる」と確信した。
「お好みハウス たこ八」には、ビジネスパーソンからファミリーまで、毎日多くのお客様が来店する。
お客様と談笑する時間、お客様の楽しそうな笑顔を見るひと時―。
古民家の落ち着いた雰囲気の中で生き生きと楽しそうに働く片岸さんご家族を見て、毎日の充実ぶりがひしひしと伝わってきた。
元々あった重厚感のある柱を生かした靴箱スペース。上部をガラス張りにすることで、視線が抜けて開放感を感じられる。
重厚感のある立派な梁を見せた店内。古民家リノベーションの店舗だから出せた落ち着いた雰囲気が居心地のよさを演出。
所在地:富山県南砺市
構造:木造
規模:地上2階建